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外傷で破折した歯をダイレクトボンディングで修復した症例
外傷で破折した歯をダイレクトボンディングで修復した症例をご紹介いたします。
初診時の口腔内
「前歯が欠けて治した部分をよりきれいに治してほしい」が主訴で来院された患者さまです。
口腔内を確認すると、右上2の切縁付近が破折し、実質欠損が認められました。また、右上1には広範囲に充填されたコンポジットレジンが認められ、左上1に充填されたコンポジットレジンには段差と不適合が認められました。これらの修復物は、転倒による外傷にて治療したとのことでした。形態不良による審美障害を呈している状態でした。
患者さまは外傷による破折で歯を失っているため、「ご自身の歯をなるべく残したい」というご希望をお持ちでした。
治療計画について
保険診療によるコンポジットレジン充填
自費治療によるコンポジットレジン充填(審美充填、ダイレクトボンディング)
ラミネートベニア審美修復
クラウンによる補綴治療
患者様はダイレクトボンディングをご希望ですが、一通り治療方針の選択肢を説明させていただきました。
患者さまはダイレクトボンディングをご希望ですが、一通り治療方針の選択肢を説明させていただきました。
今回の症例は②③④を組み合わせて治療を行っても良いかと考えましたが、患者さまはダイレクトボンディングをご希望されました。治療後に短期間での脱離や破折が生じた場合は③④を行う可能性にご了承いただき治療を開始しました。
治療回数1回目(口腔内写真・レントゲン検査・模型製作等)
カウンセリングを行い、口腔内写真撮影、レントゲン検査を行いました。また、型取りを行い、模型を製作して最終的にどのような形態にするか事前にデモンストレーションを行います。
今回は患者さまが外傷で歯を失う前の状態と外傷受傷時の写真をお持ちだったので参考資料としていただけたのはとても助かりました。
ダイレクトボンディングの特徴について
- 強化型プラスチックを歯の表面に直接盛り足す治療法
- 虫歯治療後の詰め物、歯の色や形態、歯並びの乱れなどを改善する場合にも応用可能
メリット
- ダイレクトボンディングは、歯型採りを必要とする治療法よりも歯を削る量を少なくすることが可能
- その日のうちに治療が完了、歯型採りをする必要なし(形態再現が困難な場合は型取りをする必要あり)
- 色調や透明感の再現性に優れているため自然な仕上がり
- 再治療が容易
- 劣化したレジンを削り、新しいレジンを盛り足すことで審美性や機能性を改善可能
デメリット
- 咬み合わせによっては取れやすい
- ダイレクトボンディングは、噛んだときに強く当たる部分には不向き
- 劣化、着色が生じる可能性あり(特に前歯に適応した場合)
- 過剰な負担がかかった場合、脱離の可能性があり
- セラミックの詰め物や被せ物と比較すると、着色、変色や摩耗が起こりやすい
保険コンポジットレジン充填と自費ダイレクトボンディングの違い
保険 | 自費 | |
治療時間 | 30分/1~2箇所 | 60~90分/1箇所 |
使用する色の数 | 単色 | 複数の色を使用した積層充填(マルチレイヤリング) |
色味の適合 | 単色となるため妥協的 | シェードテイキングを行い、複数の色を使用するため審美性が高い |
予後のケア | 機能的に問題がなければ形や色のご不満には対応できない | 形、色について確認を行い形態の修正や再充填、研磨等を行う |
むし歯の除去 | レジン充填と同日に行う | レジン充填と同日、または別日で充填を行う |
治療費 | 保険診療点数に準ずる | 16,500~66,000円/1箇所 |
シェードテイキング
術前の色合わせ(シェードテイキング)です。色味の異なるコンポジットレジンを歯の表面に置き、使用するレジンの色を決定します。
歯の表面が乾燥してくると、歯の色の見え方が変わってきます。コンポジットレジン充填の治療上、歯の表面は乾燥させなければ材料の接着が得られません。
詰める作業の際も刻一刻と歯の色味は乾燥によって変化していくので、削る作業の終了後やレジンを詰める直前に色味を合わせると、シェードが合わなくなる場合があります。そのため、色合わせは必ず治療の前に行うことが基本です。
治療回数2回目(既存修復物の除去・ダイレクトボンディングの実施)
麻酔を行い、既存修復物の除去を行いました。健全歯質を削らないようにレジンを注意深く除去します。写真のように、コンポジットレジンと歯の蛍光性は異なるため、ブラックライトを使用することで判別がしやすくなります。
ラバーダム防湿
レジン充填を行う際に、ラバーダム防湿を行います。
▼ラバーダム防湿(ゴム製のシートで治療する歯を口腔内環境から隔離する処置)
- 口呼吸による湿度や水分の遮断によりレジンの接着を最大限に引き出せる
- 舌、唇、頬粘膜から隔離することで治療がしやすくなる
- 唾液からの隔離
(唾液中には種々の細菌やコンポジットレジンの接着を阻害するたんぱく質等が含まれますが、これらの治療部位への侵入を防ぎます。そこまで厳密に考えなくても良いかもしれませんが、削り終わった後にうがいをしてしまうと、削り終わった部分は虫歯になるリスクが高まると考える歯科医師がいることも事実です。)
ラバーダム防湿は上記のメリットがあり、充填されたレジンを長持ちさせるための治療手技です。
巣鴨S歯科矯正歯科では、簡易防湿またはラバーダム防湿を用いてコンポジットレジン充填を行います。保険診療では簡易防湿、自費診療ではラバーダム防湿を行います。(催吐反射、鼻呼吸困難等がある場合は相談のうえ簡易防湿にて対応いたします。)
ラバーダム防湿
治療部位を口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌から隔離することで、コンポジットレジンの接着力が向上する。
簡易防湿(ロールワッテ、排唾管等)
治療部位が口腔内の湿潤環境および唾液に含まれる有機物、血液、細菌からの隔離は弱く、コンポジットレジンの接着力を100%引き出せず、修復物の脱離、二次う蝕の原因となる可能性がある。
セレクティブエッチング
歯面清掃を行なったのち、エナメル質部分に酸処理剤を塗布しセレクティブエッチングを行ないます。
※セレクティブエッチング:レジンセメントを接着させる歯面のエナメル質に酸処理を先に行い、レジンの接着力を向上させる処理法。
ボンディング処理
ボンディング処理を行います。さらさらのレジンを薄く延ばし、糊の役割を果たす操作です。 ボンディング材(コンポジットレジン充填を行う前の接着剤)について巣鴨S歯科矯正歯科では、1液性と2液性のボンディング材を用いてコンポジットレジン充填を行います。
※基本的に保険診療では1液性、自費診療では2液性を使用することが多いです。
2液性
メリット | ・安定した強力な接着力が得られる |
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デメリット | ・操作が煩雑でテクニカルエラーが生じる可能性あり |
1液性
メリット | ・操作が簡便でテクニカルエラーが少ない ・治療時間の短縮 2液性と比較し接着力が同等程度とのデータあり ・色々な成分が含まれており、歯質だけではなく他の歯科材料と接着させることが可能 |
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デメリット | ・含有成分が複雑、長期的な結果が安定しないと考える歯科医師あり ・保存期間がある程度過ぎると接着力が低下する報告あり |
※空気中の酸素に触れているレジン表層部は未重合層となり完全に硬化しません。充填したレジンを長持ちさせるためには、エアーバリア材(酸素遮断材)を塗布した状態で光照射を行い、未重合層がなくなるように完全硬化させる必要があります。
コンポジットレジン充填・研磨終了後
充填されたレジンとの境界に段差があったり、研磨されていないコンポジットレジンはプラークやステインが付着しやすく経年劣化が早くなり、ニ次むし歯や着色などの審美障害になるリスクが高くなります。形態修正と研磨を徹底的に行います。
咬合面観
本症例では、充填した脱離を少しでも少なくするために、舌感を邪魔しない程度にレジンの接着面積を口蓋側(内側)に伸ばす工夫をしました。
水色:破折した歯質の境界
黄色:レジン充填をした部位
治療直後
治療が終わってすぐの状態は、ラバーダム防湿による影響で歯質が乾燥し水分量が失われているため、歯の色味は少し白く見えます。したがって充填物と歯質の色味は治療直後は馴染んでいません。 後日改めて来院していただき、 色味の評価を行う必要があります。
2週間後 経過観察
失われた水分量が戻り、レジンと歯の色が問題なく馴染んでいることが確認できました。患者さまには大変満足いただけたようで、歯が折れてしまう前の状態は確かにこんな感じだったとのお言葉をいただきました。
患者さまより少しざらつく部分があるとのことで研磨を行い、咬み合わせの調整を少し行いました。現在、治療部位の破折防止のため就寝時にナイトガード(マウスピース)を製作し使用していただいております。
治療前後の比較
年齢/性別 | 30代 男性 |
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治療期間 | 2日(カウンセリング、治療日) |
治療回数 | 1回 180分 |
治療費 | ダイレクトボンディング 右上2:16,500円/右上1、左上1:66,000円(税込) (費用は16,500円〜66,000円の間で難易度と相談の上、決定いたします。) |
リスクなど | ・経年劣化により脱離、変色する可能性があります。 |